「土方さーん。俺ァ死んでしまうんですかねィ」






















バラード
























「げほっごほっ土方死ねぇーっ」

「おぃぃぃぃぃ!?なんか最後のおかしかったぞぉぉぉぉ!!!」


総吾がここのところずっと咳をしているのは知っていた。
口を押さえた手に、血がついていることも。


「総吾、病院行けよ」

「もう土方さんのポケットマネーで行きやした」

「それで結果は?」


煙草に火をつけながら言う。


「いやぁ、土方さんも大人になりましたねィ。ポケットマネーに反応
 しないんですから」

「話を逸らすな」


総吾が黙り込む。
一呼吸の間があいた。
総吾はゆっくりとこちらに向き直り、真面目な顔で。


「風邪、だそうです」


息とともに煙を吐き出す。


「嘘をつけ。風邪なんかでたまるか。バカは風邪引かないって言うだろ」

「なにを言ってんですかィ。風邪を引きたくても引けないからってひがまない
 で下せェ」

「うるせぇぇぇっ!!!俺はバカじゃねぇぇぇぇぇ!!!とにかく、病名を言って
 みろ!!!!」

「だから風邪ですって」


もちろんコレは嘘だろう。
全然口を割ろうとしない総吾に、苛立ちが募る。


「・・・・・言え」

「怖いですねィ。何回も言ってるでしょう。か・・・「ふざけるな」

「風邪が何日も続くか?風邪ったってお前、咳しかしてないじゃねぇか。見たトコ
 熱もねぇし、食欲はあるし、どう考えても風邪じゃねぇ」

「・・・・・・・・・・・」


総吾の手を掴む。


「それになんだよ!これは血じゃねぇのか!!いつも咳した後に血ィ吐いてる
 だろーが!!これのどこが風邪だってんだ、ええ?!」


ちょうちんの火が揺れる。
総吾は俺の手を外しながら、瞳孔開いてますぜィ。と呟いた。
そして、









「俺は幸せ者ですねィ」










と、笑顔で言った。


「俺は、病気だそうです。発見が遅くて、もう手の施し様がないと。はっきりと医者
 に言われました」

「な・・・に・・・?」

「もう近藤さんには伝えちまいました。だからもう、他の隊士も知ってるんじゃない
 ですかねィ」

「え・・あ・・・・」

「でも、わがまま言って仕事させてもらってるんです。これは他人にうつる病気じゃな
 いし。」

「なに・・・」

「土方さんは、俺のことちゃぁんと見ててくれてたんですねィ。それが嬉しい。普通
 気づきませんよ、誰が咳をしてるなんて。げほっげほっげほっ」

「総吾!」


慌てて総吾の背中をさする。
口から離した手には、やっぱりべっとりと血がついている。
総吾は弱々しくその手を見て、ちょうちんが明るすぎますねィと、震える声で言った。
そのままちょうちんを消すと、部屋は夜の闇に包まれる。


「もって半月、だそうです」

「実はもう、動くのも辛いんです」

「土方さんにだけは知られたくなかった」

「だから、近藤さんにお願いして、黙っててもらいやした」


暗くて、総吾の顔が見えない。
総吾は、普段とは想像できないほどの悲しげな声で、


「俺ァ、死んでしまうんですかねィ」


と呟いた。

そんなわけねぇだろう、とか見え透いた嘘言うんじゃねぇとか、色々言いたいことは
あったけれど、今の俺は心と体が分裂しちまっている。

げ ん じ つ を み た く な い。

なぁんて、嘘ですぜィ。ったく土方さんはすぐに騙せて面白いでさァ。
などという言葉が聞きたかった。


けれど、総吾の口からは、そんなセリフは出ない。
この先、短い中で出るはずもないのだろう。



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